事件番号:JP2017-0003 裁 定 申立人1: (名称) レッド・ブル・アクチェンゲゼルシャフト (住所) スイス国、6341 バール、ポストシュトラーセ、3 申立人2: (名称) レッドブル・ジャパン株式会社 (住所) 東京都渋谷区渋谷一丁目3番3号 登録者: (氏名) 中沢商事株式会社 (住所) 東京都品川区北品川一丁目9番7号 トップルーム品川1015 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネルは、JPドメイン名紛争処理方針 (以下、「方針」という。)、JPドメイン名紛争処理方針のための手続規則 (以下、「規則」という。)及び日本知的財産仲裁センターJPドメイン名紛 争処理方針のための手続規則の補則並びに条理に則り、申立書・提出された 証拠に基づいて審理した結果、以下のとおり裁定する。 1 裁定主文 ドメイン名「REDBULLBOXCARTRACE.JP」の登録を申立人2に対して移転せ よ。 2 対象JPドメイン名 紛争に係るドメイン名は「REDBULLBOXCARTRACE.JP」である(以下、「本 件ドメイン名」という)。 3 手続の経緯 別記のとおりである。 4 当事者の主張 (1) 申立対象ドメイン名 本件ドメイン名は、登録者により平成27(2015)年7月1日に株式会 社日本レジストリサービス(以下、「JPRS」という。)に登録され、平 成29年4月7日(本件手続の申立書提出日)現在において、JPRSに登 録者の名義にて登録されているものである。 (2) 申立人ら及びその主張 a 申立人1は、レッドブル・ゲーエムベーハーの子会社として同社を 中心とするレッドブルグループにて、日本を含む複数国にて同グルー プの商標管理を行うことを業とする会社であると主張する。申立人1 は別紙記載の「RED BULL」という商標(以下、「本件商標」とい う。)の登録者であり、日本のみならず世界各国において、多数の商 標に関する出願登録を有していると主張する。一方、申立人2は、申 立人1の子会社であると主張する。 b 申立人らは、本件ドメイン名の文字列のうち「BOXCARTRACE」という 部分については、動力は無いが故に重力のみを動力源として走行する 車両を用いて行うレースの一種類を指す普通名称である一方で、 「REDBULL」の部分は著名な本件商標(下記に述べる。)と実質的に同 一であり、「REDBULL」の部分に出所識別力があると主張する。そのた め、本件ドメイン名の要部は「REDBULL」の部分であると主張する。 その上で、本件ドメイン名の要部が「redbull」である以上、本件商 標との間では明らかに同一又は実質的に同一であって、相互に類似 し、誤認混同の恐れを有するものであると主張する。また、同種の事 案におけるWIPOドメイン仲裁調停センター紛争処理パネル裁定の前例 においても、「redbullitech.com」、「redbullpages.com」などでも 同様の判断がなされている旨、主張する。 よって、本件登録商標である「Red Bull」(本件商標)及び営業 表示名「Red Bull Box Cart Race」(以下、「本件表示」という。) と、本件ドメイン名の要部「RED BULL」とが同一又は類似しており、 申立人表示の著名性も考え合わせると、混同の恐れがあることがある と主張する。 c 申立人はまた、次に述べる点において、登録者は本件ドメイン名に 関係する権利または正当な利益を有していないと述べる。 (ⅰ) 登録者の名称と本件ドメイン名が一致しないこと。 (ⅱ) 本件ドメイン名と一致する登録者における他の日本での登録商標 が存在しないこと。 (ⅲ) 本件ドメイン名に関し、申立人から登録者に対するいかなるライ センス契約関係も存在しないこと。 d また、申立人は、登録者の当該ドメインが不正の目的で登録または 使用されていると主張する。 申立人らは、そもそも本件商標や本件表示については、申立人ら及 びその流通パートナー企業を通じて、日本だけでなく世界71ケ国で販 売されており、2015年だけでも、世界で59億本超、日本においても2 億本超を販売しているだけでなく、多彩・多様な宣伝広告活動につい て、多額の費用を費やして広範囲かつ活発に行っていることから、本 件商標の周知・著名性は確立されていると主張する。 更に、申立人らは本件表示についても、申立人らが「Red Bull Box Cart Race」なるスポーツイベントを日本において開催し、積極的に 様々な宣伝広告に努め、各種キャンペーンを行った結果、各種メディ アでも取り上げられ、申立人らの営業表示として需要者の間において 広く認知・認識され、周知・著名であると主張する。 e 以上のような前提の上で、申立人は以下の点において、登録者によ る本件ドメイン名の登録及び使用については、不正の目的によるもの であると主張する。 (ⅰ) 登録者がその運営するドメイン事業、IP分散サーバーを中心と したホスティング事業などを行っているところからみれば、商業 上の利得を得る目的で、本件とメイン名からアクセスできるウェ ブサイトに係る商品・サービス等の出所・スポンサーシップ・取 引定型関係・推奨関係等について誤認混同を生ぜしめることを意 図して、インターネットユーザーを、そのウェブサイトに誘引す るために本件ドメイン名を使用していると主張する。 (ⅱ) また、申立人は、エナジードリンクの販売はもとより、多種多様 な事業活動を展開している申立人らと登録者の活動との間におい ても、潜在的な競業可能性は否定できず、登録者が本件ドメイン 名をURL入力欄や検索キーワードに入力することで、インターネ ットユーザーが申立人らウェブサイトではなく登録者の設定した ウェブサイトに誘導され、あたかも登録者の行っている活動が申 立人の行っている活動であるかのように誤認されると主張する。 (3) 登録者とその主張 登録者は答弁書を提出せず、何らの主張・反論もしなかった。申立人 への唯一の反論と思われる主張は、本件手続の申立以前において、電子 メールにて「ICANN認定レジストラとして、ICANNポリシーを批准してお ります」というような、本件とは関係性の不明な主張を申立人らに返答 したにとどまっている。 5 争点及び事実認定 汎用JPドメイン名の登録者となるものは、JPRSが定める汎用ドメイン名 に関する紛争処理手続を組み込んだドメイン名登録契約に従うものであ り、そこにおいては、社団法人日本ネットワークインフォメーションセン ター(JPNIC)が2000年7月19日に採択した方針と、そのための規則に従 って、申立人はドメイン名紛争処理手続の申請を行うものである。そし て、その規則第15条では、当該ドメイン名について「提出された陳述・文 書および審問の結果に基づき、処理方針、本規則および適用されうる関係 法規の規定・原則、ならびに条理に従って、裁定を下さなければならな い」と規定されている。 一方、JPドメイン名紛争処理方針第4条a項では、申立人が主張・立証 の義務を負う要件として以下のように定めている。 ⅰ) 登録者のドメイン名が、申立人が権利又は正当な利益を有する商標そ の他表示と同一または混同を引き起こすほど類似していること。 ⅱ) 登録者が、当該ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい ないこと。 ⅲ) 登録者のドメイン名が、不正の目的で登録または使用されているこ と。 そこで、本件においては、本件ドメイン名の登録者が答弁書など特に反 論と反証を示す文書を提出していないところから、申立人らによって提出 された主張と証拠に基づいて、順次、各要件を充足しているか否かを検討 する。 (1) 同一又は混同を引き起こすほどの類似性(紛争処理方針第4条a (ⅰ)) a 申立人らの本件商標および本件表示 (ⅰ) 申立人らの登録商標 申立人1は、本件商標として商標「RED BULL」について日本商標 登録を3件(標準文字含む)および国際商標登録を通じて4件受 けている(商標登録第3263136号、国際登録第1108568B号他の商 標原簿・公報など、甲2ないし4号証)。いずれも現在における 商標登録の主体は申立人1であり、レッドブル・ゲーエムベーハ ーの子会社として商標管理を業としていることが認められる(申 立人らの会社概要・事業活動状況等に関するウェブサイト、なら びに申立人1の親会社レッドブル・ゲーエムベーハー知財担当顧 問による宣誓供述書、甲1号証、甲4号証)。申立人2は申立人 1の子会社として、これらの本件商標について日本での使用を正 当に許諾されている関係に立つものとみるのが相当である。 (ⅱ) 申立人らの表示 申立外である申立人1の親会社レッドブル・ゲーエムベーハー は、オーストリアにて1987年に設立された会社であり、世界的に エナジードリンクの製造・販売を行ってきたものである。2006年 からは、日本でも本格的にエネルギードリンクの販売を開始し た。その販売を促進するための世界的キャンペーン活動の一環と して、申立人1を通じて同社の孫会社にあたる申立人2による日 本のイベントとして「RED BULL BOX CART RACE」というイベント を2009年から日本において開催し、積極的に様々な宣伝広告やキ ャンペーン活動に努めてきていることが認められる。このイベン トが各種メディアに取り上げられることもあり、「RED BULL BOX CART RACE」という文字列からなる本件表示は、既に申立人1及び 2の営業表示として需要者に相当広汎に認識されうる状態であった ことは明らかである(前記宣誓供述書、Red Bull Box Cart Race 宣伝資料、甲4号証、甲5号証)。 b 登録者のドメイン名 登録者は、ドメイン名「REDBULLBOXCARTRACE.JP」を2015年7月1 日にJPRSに登録していることが明らかである(JPRSのWHOIS情報、 甲6号証)。 c 申立人の本件商標及び本件表示と登録ドメイン名が同一または類似 であること (ⅰ) 本件商標及び本件表示の周知・著名性 申立人1の親会社であるレッドブル・ゲーエムベーハーは、オー ストリアにて1987年に営業を開始し、2006年から日本で本格的に エネルギードリンク販売を開始した。同社にとって申立人2は資 本関係において孫会社となる日本法人であることは前記認定の通 りである。 レッドブル・ゲーエムベーハーは、エナジードリンクの製造・販 売をその主たる業務とするビジネスについて日本を含み世界的に 展開しているところであり、2011年から2015年までのエナジード リンクの総売上数は、世界的に46億6000万ユニットから59億 8200万ユニット超へと増加(うち、日本においては8800万ユニッ トから2億11200万ユニット超に増加)している(前記宣誓供述 書、甲4号証)。 また、その取扱商品に対するブランドイメージを作り上げるため に、スポーツや文化のイベントのスポンサーとなることや、その 運営を自らも積極的に行い、宣伝広告活動を広範囲かつ活発に行 ってきている(前記甲4号証、5号証)。その一環として、例えば 2015年には、日本のみにおいても4160万ユーロ(約50億円)超 の金額が宣伝広告活動に支出されており、経年的にみると、2011 年から2015年にかけてのメディア露出のための経費は、4億1500 万ユーロ(約49億円)から6億2600億ユーロ(約75億円)超へ と増加し、マーケティング費用としてもこれと呼応して同じ期間 において15億7500万ユーロ(約189億円)から20億6000万ユ ーロ(約247億円)に増加している(甲4号証)。 その結果、「RED BULL」という文字列からなる本件商標は、日本 における需要者の間においても相当広汎に認識されていることが 認められる。そして、この状況は、日本の特許庁商標審決の場面 でも確認されているところである(平成28年3月2日付審決[無 効2015-890052、平成28年4月11日確定]、甲11号証)。 かかる「RED BULL」との文字列を含む「RED BULL BOX CRT RACE」の本件表示についても同様の状況が見て取れることは、申 立人らが2009年からかかるイベントを日本において開催し、積極 的に様々な宣伝広告やキャンペーン活動に努め、各種メディアに 取り上げられてきていることからも明らかである。 (ⅱ) 本件ドメイン名と本件商標及び本件営業表示との間での同一性又 は類似性 本件ドメイン名の文字列のうち「.JP」の部分は、当該文字列が JPドメイン名であることを示すトップレベルドメインの部分であ り、これは国別コードにより当該ドメイン名登録の属する国別の 所在を示すものに過ぎず、それ以上の意味を持つものではない。 一方、本件ドメイン名の文字列のうち「REDBULLBOXCARTRACE」の 部分は、いわゆるセカンドレベルと呼ばれる部分であるが、 「BOXCARTRACE」部分は、エンジン等の動力を持たず、原則として 重力のみを動力源として走行する車両を用いて行うレース、すな わちボックスカートレースという車両を用いたレースの一般的・ 記述的名称と理解される(鈴鹿ボックスカートグランプリおよび 各地で開催されているボックスカートレースの実例、甲7号 証)。 このような点を前提にすれば、「REDBULLBOXCARTRACE」という 文字列においてその出所識別力を有するのは「REDBULL」の部分で あって、この部分において周知・著名性が認められるところから すれば、「REDBULLBOXCARTRACE」の文字列全体を一体的にみて も、これは申立人らが製造・販売するエナジードリンクに関連し て、その販売促進のために行っているF1レースをはじめ、各種の モータースポーツ、例えば「Box Cart Race」のスポンサー等とし ての活動を想起するのが、インターネットユーザーでもある一般 需要者の認識というべきである。 よって、本件ドメイン名は、本件商標との間で同一又は混同を 生じる程に類似であることは明らかである。 また、申立人らにおいて、自ら「Red Bull Box Cart Race」を 2009年以来、日本でも開催してきていることを考えると(甲5号 証)、本件表示においても、やはりその出所識別力が認められる 主要部分は「Red Bull」の部分であるから、上記のような本件ド メイン名における出所識別力を有する主要部分「REDBULL」と対比 すれば、本件ドメイン名が本件表との間で同一又は混同を生じる 程に類似であることも明らかである。 従って、本件ドメイン名は、申立人らが権利又は正当な利益を有 する本件商標及び本件営業表示と同一又は、少なくとも混同を引 き起こすほど類似であるというべきである。 (2) 登録者が、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益を有してい ないこと 本件ドメイン名の登録者は、答弁書を提出することなく、本件登録者 は権利又は正当な利益の存在について何ら実質的な主張を行っていな い。 一方、申立人らの主張するように、JPRSのWHOISにおける登録者情報 や法人登記上の情報において確認される登録者の名称・会社の目的、事 業内容(プログラムの開発及び販売、サーバーホスティングサービス他 の事業)をみても、本件ドメイン名とはその文字列や意味等において何 ら一致するところはなく、他に同社としての事業との関連性も見いだせ ない(登録者自身のウェブサイトにおける会社情報・法人登記情報、甲6 号証、甲10号証)。 また、登録者は、本件ドメイン名を用いたURLにおいてバストアップ 関連商品の販売を目的としたウェブサイトを運営していることが認めら れるが、かかるウェブサイトにおける記述・掲載内容と本件ドメイン名 との間にも何らの関連性も見出すことができない(申立人ら代理人作成 の報告書、甲9号証)。 また、登録者に対して申立人らが何ら本件商標や本件表示につての使 用を許諾していないだけでなく、登録者自身における何らの商標登録を 有することもなく、専らに本件ドメイン名を登録している状況も認めざ るをえない(法人登記情報、独立行政法人工業所有権情報館J-Plat Pat データベースによる「中沢商事株式会社」名義の商標登録状況、甲10号 証)。 従って、登録者には、本件ドメイン名に関係する権利又は正当な利益 を有しているという事情は全く認められない。 (3) 登録者の本件ドメイン名が、不正の目的で登録又は使用されているこ と a 本件ドメイン名に基づくURLにおいて所在する登録者のウェブサイ トでは、バストアップに関する他人のウェブサイトへのリンクがなさ れているとともに、この登録者のウェブサイトからさらにリンクが張 られた先のURL上においては、バストアップのためのサプリを紹介 し、その購入を推奨するかのような掲載がなされている。本件ドメイ ン名において存在するウェブサイトにおける掲載内容の題名は、「お っぱい(バスト)を大きくする為にしたこと」であり、少なくとも 2017年4月5日の時点においては、かかる記載があったことは認めら れる。それと共に、申立人らより登録者が警告状を最初に受け取った 2016年7月頃以降、同年9月30日時点に至るまで、上記登録者のウ ェブサイトにおいて、「バストアップ方法【クリーム・サプリメン ト】モテるバストを目指す!」というページにインターネットユーザ ーを誘引し、クリームやサプリメントの情報・購入ページへと更にユ ーザーを導くものとなっていたことが認められる。(甲9号証)。 そもそも、本件ドメイン名が、本件商標及び本件表示と同一又はこ れに類似するものであること、またそれらがいずれも日本をはじめ世 界的に需要者にとって周知・著名であることは既にみた通りである。 そうであれば、登録者は本件ドメイン名を登録することで、かような 本件商標及び本件表示の有する周知・著名性に依拠しつつ、それと同 一又は混同するほどに類似する文字列を含むことによって、申立人ら のウェブサイトや申立人らの商品である「Red Bull」や、申立人らが 行っている「Red Bull Box Cart Race」について情報を得たいと考え るインターネット上の需要者を、本件ドメイン名上にあるそれらとは 全く何らの関連性もない登録者のウェブサイトに誘導する意図をもっ て本件ドメイン名を登録し、使用しているものと考えるのが合理的で ある。 インターネット上のユーザーが、一定の情報を検索するにあたって 閲覧したいウェブサイトのドメイン名やURLがわからない場合には、 当該ウェブサイトの内容に含まれるであろう商標や表示などを検索す るキーワードとして組み合わせ、検索エンジンを利用して検索行為を 行うことは極めて周知の方法であるところ、同様の方法で 「redbullboxcartrace」と検索エンジンにおいて入力した場合に、登 録者のウェブサイトが上位に表示されるという結果があることをみて も、登録者による本件ドメイン名の登録が自らの商業上の利得を得る 目的で本件ドメイン名上にある登録者のウェブサイトに誘導しようと 行われていることは明らかである(検索エンジンGoogleにおける検索 結果、甲13号証)。 申立人らにおいては、2016年7月から11月頃にかけて複数回にわ たり登録者に対して警告状を発したが、これに対する登録者の真摯な 応答はなかった。その一方で、順次登録者のウェブサイトにおける掲 載内容を削除しながら、登録者の事業の一部と思われる「ULTRA- DOMAIN.JP」のサポート窓口からなされた返信メールにおいては、本件 ドメイン名が「.jp」にかかるJPRS管理下の汎用ドメイン名であるに も拘わらず、ICANN認定レジストラとしてICANNポリシーに則って WIPO仲裁センターにおける紛争処理対応しかしないと理解される趣旨 の意味不明な対応をしており、登録者における不正な登録又は使用の 事実についての不合理な態度が認められる。そのため、その行為の悪 質性は高いと言わざるを得ない(申立人ら代理人から登録者への通信 とその配達状況・応答状況、甲14号証、15号証、16号証、17号 証)。 よって、本件ドメイン名については、登録者が、商業上の利得を得 る目的で、自らのウェブサイトもしくはその他のオンラインロケーシ ョン、またはそれらに登場する商品およびサービスの出所、スポンサ ーシップ、取引提携関係、推奨関係などについて誤認混同を生ぜしめ ることを意図して、インターネット上のユーザーを、そのウェブサイ トまたはその他のオンラインロケーションに誘引するために、本件ド メイン名を使用しているものと認められる(JPドメイン名紛争処理方 針第4条b.(ⅳ))。 b 申立人らは、上記のような事実に加え、本件ドメイン名における登 録者のウェブサイトにおいて、申立人らの製造・販売する商品自体 や、彼らが主催する「Red Bull Box Cart Race」などに関心と需要を 有するインターネットユーザーに対して、バストアップという、それ らとは全く関連性のない掲載内容のウェブサイトへ誘導する活動をし ていることによって、潜在的な競業者としての申立人らの事業を混乱 させることを目的して本件ドメイン名が登録されているとも主張して いる。 確かに、「競業者」という概念においては、顕在的なもののみなら ず潜在的なそれも含まれることはありうるが、本件において、申立人 らの行う事業や活動と登録者の行っている事業自体や本件ドメイン名 を基礎に展開されているインターネット上の情報提供やサービスを比 較して、潜在的にも競業者としての関係が成立しうるのかについて は、申立人らの提出した主張と証拠を精査した限りでは、確たる事実 を見出すことができない。 よって、本件の登録者が、競合者の事業を混乱させることを主たる 目的として、本件ドメイン名を登録しているとまで認めることはでき ない(JPドメイン名紛争処理方針第4条b.(ⅲ))。 6 結論 以上の通り、本件登録者が実質的な反論を行わないところにおいて、申 立人らから提出された証拠によれば、その主張に沿った事実が概ね認めら れるのであり、本紛争処理パネルは、登録者によって登録されたドメイン 名「REDBULLBOXCARTRACE.JP」が申立人の登録商標と混同を引き起こすほど に類似し、登録者が、ドメイン名について権利又は正当な利益を有してお らず、当該登録ドメイン名が不正の目的で使用されているものと判断す る。 よって、方針第4条ⅰに従って、ドメイン名「REDBULLBOXCARTRACE.JP」 登録を申立人2へ移転すべきこととし、主文のとおり裁定する。 2017年6月16日 日本知的財産仲裁センター紛争処理パネル 単独パネリスト 矢 部 耕 三 別 紙
別記 手続の経緯 (1)申立書受領日 2017年4月6日(電子メール)及び4月7日(書面) (2)手数料受領日 2017年4月7日 申立手数料の受領確認 (3)ドメイン名及び登録者の確認 2017年4月7日 JPRSへ照会 2017年4月7日 JPRSから登録情報の回答 回答内容:申立書に記載された登録者はドメイン名の登録者であること、 JPRSに登録されている登録者の電子メールアドレス及び住 所等 (4)適式性 日本知的財産仲裁センター(以下「センター」という。)は、2017年 4月10日に、申立書が処理方針と規則に照らし申立書が適合している ことを確認した。 (5)登録者への通知日及び内容 1) 申立書送付日(手続開始日) 2017年4月12日(電子メール 及び郵送) 2) 申立書及び証拠等一式 3) 答弁書提出期限 2017年5月15日 (6)手続開始日 2017年4月12日 センターは、2017年4月12日に申立人及び登録者には電子メール 及び郵送で、JPRS及びJPNICには電子メールで、手続開始日を通知した。 但し登録者宛郵送分については「保管期間経過」として返送された(登 録者宛の通知の郵送分は以降もすべて同様に返送された)。 (7)答弁書の提出の有無及び提出日 センターは、提出期限日までに答弁書を受領しなかったので、2017 年5月16日に「答弁書の提出はなかったものと見做す」旨の答弁書不 提出通知書を、電子メール及び郵送で申立人及び登録者に送付した。 (8)パネリストの選任 2017年5月22日 申立人は、1名のパネルによって審理・裁定されることを選択。 パネリスト:弁護士 矢部 耕三 中立宣言書の受領日:2017年5月24日 (9)紛争処理パネルの指名及び裁定予定日の通知 2017年5月22日 JPNIC及びJPRSへ電子メールで通知 申立人及び登録者へ電子メール及び郵送で 通知 裁定予定日:2017年6月9日 (10)パネリストへのパネリスト指名書及び一件書類受け渡し 2017年5月22日(電子メール及び郵送) (11)追加陳述書及び証拠書類 2017年5月25日、パネリストは、申立人の提出した証拠書類に関 し、手続規則12条の規定により追完を求め、5月30日、センターは、 申立人から陳述書を受領し、6月1日、パネリスト及び登録者に送付し た(電子メール及び郵送)。 (12)裁定期限の延長 2017年5月25日、パネリストは、手続規則10条(c)但書の規 定により本件裁定期限を同年6月16日まで延長する旨を、申立人、登 録者(電子メール及び郵送)、JPNIC及びJPRSに通知した(電子メール)。 (13)パネルによる審理・裁定 2017年6月16日 審理終了、裁定。